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 グルジア雑記 
えにし
経巡るグルジアトビリシの縁
 
5朝カフェ
 青空が広がっていた。商店や公共施設が多いルスタベリ通りは、朝8時半でもまだ通勤通学の時間帯であるらしく、地下鉄駅はまるで呼吸をするかのように、人びとを吸い込み、吐き出す。とはいえ、そこはグルジア、殺気立った足音は響かず、駅を少し離れると、たちまち普段の穏やかさに戻る。
 地下鉄駅に寄ってICカードを入手したあと、Entrée(アントレ)というフランス名のカフェを目指す。宿は朝食が付いていないため、朝メシを食べに行くのである。旅先の朝食はエネルギー源であると同時に、心の始業チャイムだ。これから始まる一日に向けて、気持ちが上がっていく時間になればうれしい。
 何年か前に台湾の台中を訪れたとき、Google先生に教わった地元店が地味に名店だったことがある。今回も朝営業のカフェを朝からタブレットで検索したのだった。ところがグルジアの人は朝からカフェに行ったりしないとみえ、朝から開いている店は少ない。そんななか、辛うじて見つけたのがアントレだった。
 小規模なチェーン店のようで、市内に何店舗かある。宿から行きやすいのは、これから行くルスタベリ通り20番地だ。じつはもっと近い場所に1店あったのだが、このときはそこまで気づかなかった。
 目指す店——かりにルスタベリ店と呼んでおこう——は2つの地下鉄駅のほぼ真ん中にある。ルスタベリ通りはトビリシ随一の繁華な通りで、一部に老朽化が目立つものの、重みのある荘重な建物や装飾を施した優美な建物が多い。旧ソ連時代に手が加えられなかったのは、じつに幸いと言うほかない。
 やがて通りの向かいにマリオットホテルが現れる。元の建物がうまく保存されているので、ちょっと見には気づかない。実際、それがマリオットだと知ったのは別の機会に前を通ったときだった。入口付近がモダンに改装されていて、シックで落ち着きのあるMarriottの銘板が、どこか誇らしげに嵌(は)めこまれていた。
 その少し先に、アントレのルスタベリ店がある。
 いわゆるシアトル系というのか、大きなウインドーに明るい店内が映り、入口の向こうにセルフのカウンターが見える。大通りに面し、ガラス張りで透明感にあふれるカフェというのは、どうも落ち着かない。しかも、トビリシの街並みに溶け込んでいる風でもない。とはいえ、欧米資本ではなさそうだし、形はシアトル系をなぞっていても、グルジア人が起業した店かもしれない。もしそうなら、形式だけを見て遠ざけることに理はない。何より、朝食を食べに来たという現実が目の前にあった。
 あまり気が進まないままドアを押して中に入ると、幸い、前の客が注文している最中だった。
 店員がガラスケースの向こうで客に対応している間、私は壁のドリンクパネルのメニューをざっと見る。英語が併記されているので、要領はスタバとほとんど変わらない。次にパンのケースをざっと見て選ぶ。店員の注意がこちらに向く前に注文が決まったので、かなりスムーズに注文が通った。
 飲み物はダブルエスプレッソを、パンは細長いデニッシュバーを頼んだ。朝食は元々軽く済ますうえ、パンが甘いので、濃いコーヒーを多めにした。値段はデニッシュの2.5ラリに対し、コーヒーが6ラリとやや高めだ。1ラリが0.5ユーロ弱(約65円)なので、ダブルエスプレッソはほぼ400円ということになる。シンプルな朝メシにしては値段が張った。気軽に毎朝来られる店ではない。
 店内は意外と奥行きがあり、仕切りの奥にもテーブル席が20席ほどある。大通り側には7、8人の客がいるが、奥側には若い女性2人が向き合って座っているだけ。私は奥のテーブル席に座り、メールとツイッターをチェックしながらのんびり食べた。

初秋の朝のルスタベリ通り(自由広場側)

マリオット(მარიოტი)ホテルの入口

宿に近いほうのアントレでの朝食
(2014.12.14 記)