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 グルジア雑記 
えにし
経巡るグルジアトビリシの縁
 
4グルジアの肉まん・ヒンカリ
 たとえばイタリアでビザを食べるとか、韓国でピビンバや参鶏湯(サムゲタン)をいただくとか、あるいはタイやラオスでもち米のご飯(カオニャオ)を買うとか、よく知られた料理なら頼みもするが、そうでもなければ、旅先で土地の料理を食べることはそれほどない。どういう郷土料理があるかさえ知らないことも多い。
 ガイドブックで多少の予習をしたところで、急には覚えられない。それに料理名がそのままメニューに出ているとは限らない。土地に馴染んだ料理ならバリエーションも多く、パンひとつをとっても細かな種類と名前があったりする。
 グルジア料理については何も知らなかった。
 ただ、まったく幸いなことに、到着の日にKさんとお会いすることになっていて、ヒンカリというものを食べに行った。
 連れられた店は、ファミレスの内装をブラウンに統一して大人の雰囲気にしたような所で、客層はいくらか余裕のある中流と見えた。大きめの皿に載せて運ばれてきたヒンカリたちは、とても独特な形をしていた。乱暴にいえば、小籠包を数倍大きくして皮を厚くした感じだろうか。このページのタイトルには「肉まん」と書いたが、外形はむしろ巾着に近く、まるでたったいま樹木からもぎ取ったかのように、てっぺんがぎゅっとねじられた形になっている。
 中に熱々のスープが入っていて、やけどに注意しながらスープを吸い出す要領は、まさに小籠包だ。いや、小さくはないから大籠包と呼ぶべきか。てっぺんのヘタというか芯のような部分はいわば取っ手であり、食べずに残す人が多いとKさんが教えてくれる。もったいない気もするが、その2、3センチの部分はもはや生地の棒なのでやや堅く、食べるにはたしかに向いていない。
 具には香草(パクチー、コリアンダー)が混じっていた。グルジアで香草に出会うとは意外だったが、輪郭のはっきりした肉の味に清涼な風味が載り、ぱらぱらと振った胡椒(こしょう)とともに、小気味いい刺激を放っていた。
 サラダを傍らに、4個も食べれば十分に腹がふくれる。何よりKさんとの気楽な会話のおかげで、ヒンカリのうまさがさらに引き出された。
*      *      *
 次の日の夕方、宿と自由広場の間にあるダディアニ通りで晩メシに手頃な店がないか探していたら、うまい具合にヒンカリを出す店があった。店頭にグルジア文字で大きくヒンカリと書いてある。不案内な一見(いちげん)の客にはわかりやすくてありがたい。
 英語のメニューを見ると、普通のヒンカリ以外にいくつか種類があったので、ポテト・ヒンカリを頼む。運ばれてきたそれは、ふかしたてのジャガイモが皮の中でほくほくしているが、皮とジャガイモのでんぷん二重奏は、粉物好きの大阪人にとってもたいがいな代物で、じわりじわりと飽きが来る。それでも店のおばちゃんたちは客の様子にいちいち頓着していないので、あわてて胃袋に収める必要はない。サラダのトマトとキュウリをときどきつまみながら、カズベギというビールを片手にゆっくり食べた。
 この店には愛想笑いがないかわりに、余計な気遣いもいらない。ひとりでのんびり食べるのにいい。連日のヒンカリに気持ちも満たされた私は、カズベギ・ビールの淡い酔いに身をまかせ、灯りの少ない静かな道を宿に向かった。

ヒンカリ(初日)

ポテト・ヒンカリとサラダ(2日め)

半地下の店の入口(左の ხინკალი がヒンカリ)
(2014.11.28 記)